あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています

「私、彼のために料理学校に行ってるの。もちろん親には内緒よ。だって家には家政婦さんがいるんだもの」
初めて料理した時、米を洗剤で洗ったらしい。
それでも由理恵はいつかその彼との結婚を夢見て、彼女なりの努力はしていたらしい。
ところが、彼氏は結婚に対し消極的というか、こんなスーパーお嬢様を自分の嫁にするのはかなりの勇気が必要だったと思う。
だから彼氏は、由理恵にふさわしい男が現れた時には身を引くと常日頃から言っていたそうだ。
「私には彼しかいないし、彼以外考えられなくて……あなたとの縁談話が来た時、どんな反応するかなって思ったら……別れる前提でギリギリまでならって言ったの」
由理恵は今にも泣きそうな顔で唇を強く噛んだ。
「でも君は、その彼がいいんだろ？　彼だって君が好きなんだろ？」
「そうよ。だけど、彼は『住む世界が違う』っいうの。何が住む世界よ。そんなこというなら私が彼の住む世界にいけばいいじゃないっていったのよ。だけど……」
「だけど？」
「彼は私には無理だっていうのよ」
……確かに生粋のお嬢様には難しいかもな。
「どうせあなたも無理だって思ってるでしょ」
「まあ……」
否定はしない。
「もうわけわかんない。住む世界って何よ。好きだけじゃダメなの？」