あの夜身ごもったら、赤ちゃんごと御曹司に溺愛されています
とりあえず、お互いに結婚の意思がないと知った俺たちは、今までのような余所余所しさがなくなっていた。
由理恵は公務員のまーくんとの写真をこれ見よがしに見せびらかした。
真面目で、由理恵のことを大事にしてくれそうな人だ。
都合が良すぎるかもしれないが、なんだか兄のように気分だ。
「そう言えば……悠一さんの好きな人って、野菜を上手に保存してくれた人でしょ」
「え?」
一気に顔が熱くなるのを感じだ。
「ほらやっぱり図星だ」
「なんでわかった?」
由理恵は得意げな顔で
「見ればわかる。後顔に出過ぎだから」
「そのうち紹介してやるよ」
「私もね」
由理恵がニヤリと笑った。
だが、本音を言えば親を説得できる自信はない。
自信があれば、今頃俺の隣には翼がいるから……。
でも明日、東京に帰ったらしばらく翼に会えなくなる。
あんなあやふやな、別れ方をしたまま東京にいくことなんてできない。
「悪い。俺ちょっと出かけてくるよ」
「ええ? どこへ。おなかも減っちゃったんだけど」
由理恵のお嬢様らしさがなくなるのはまだ当分先かもしれない。
「冷蔵庫の中のもの。どれもチンして食べられるから適当に食ってくれ。それとベッドは俺の使っていいから」
俺は由理恵の返事を聞かずに、車に乗り込んだ。
昨日の今日で来てくれるとは思えないが、ダメ元だ。
俺はスマホを取り出すと、
【話がしたい。蛍の森で待っている。来るまで待っているから】
とメールを送った。
そして車を走らせ蛍の森へと向かった。
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