きみはわたしの地獄
それでも、まるで吸い込まれるかのように、彼女との距離が近づいていく。
誰なの。
「コウ!」
思ったよりもずっと、ずっとか細い声が自分から漏れた。もっとはっきり呼んだはずなのに、情けない。
だけど彼にはちゃんと届いたようで、おどろいた様子でこちらを振り返った。
「……え、…え?」
コウの隣にいた人物と視線が重なる。
──── 死ぬ。
何かに首を切られたような、そんな鋭い時間だった。
声も出ない。息はできているだろうか。足からちからが抜けて、倒れるように地面に尻もちをつく。
そんなわたしに向かって差し伸べられたものはコウの手のひらじゃなかった。
足元、腰、おなか…胸に、首……順番に映していく。
見たくない。これ以上は見たくない。そう思っているのに、どうしてその先を見てしまったんだろう。
「おなじ、かお……」
一卵性双生児でもなきゃ、そんなことあるわけない。いや、それ以上だ。
輪郭から、顔のパーツ、色、髪型まで…化粧の仕方でさえ、デート仕様のわたしと同じ。違うところを見つけるほうがむずかしい。
いつまでも手を取らないで呆然としていたからか、その存在はしゃがみ込んでずいっと顔を近づけてくる。
気持ち悪い。気持ち悪い。わたしは、わたしだけしかいないはず。
「な、なんだよ…なんで澄春が二人いるんだよ!」
それはこっちが聞きたい。
同じ容姿ということ、だけじゃない。
この誰かは、わたしとして、コウと一緒にいたことになる。