きみはわたしの地獄


「……コウのばか、身長が違うじゃない!あんたなんで彼氏なのに気づかないの!?」

「いやだってヒール履いてるから…」

「履いててもこ、こ、これのほうが高いし夜景見たいなんてわたしは言わないでしょ!」

「澄春ちゃん、これって言いかたはひどいんですけど」

「ひぃっ…」


しゃ、しゃべった。似てるけど、ちょっとだけ低い音。

わたしの名前を言った。はっきり言った。つまりなに、どういうこと…?


掴まれた手を振り払う。


「…あんた一昨日、サラリーマンと渋谷に行った…?」

「そんな目で見ないでよ。澄春ちゃんにあのブラック企業はだめだと思って守ってあげたのに」

「勝手に…あんたのせいで面接最悪だったんだけど…」

「よかったね」


勢い任せに立ち上がり、殴ろうと腕を振りかざす。だけどそうはできなかった。わたしの顔だったから、殴れなかった。


聞きたいことも聞かなきゃいけないことも聞くべきことも多くあったと思う。

だけど頭がまわらなかった。これ以上何も言葉にできなかった。


急いで立ち上がってコウの手を掴み、逃げるようにその場を離れる。


今まで三年間、たくさんの人から行ってもいない場所で見かけたという話を度々された。こわかったし気色悪かったけど、どこか半信半疑でいた。

だって同じ顔をした誰かがいるなんて、あるわけない。



──── 本当に存在していた。


あれは、いったい何……?


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