きみはわたしの地獄
逃げなきゃよかった。捕まえて、何が目的か、どうしたらやめてくれるか、そもそも何者なのか、問い詰めるべきだった。次どこで見つけられるかわからない。また現れてくれるのかも危うい。
「コウも、もう騙されないでね」
「うん。…あ、じゃあルフィたちとビビみたいに合言葉決めとこうぜ!」
「…楽しんでるでしょ」
でもちょっとだけ気が紛れたかも。コウがバカでよかった。
その日はコウの家に泊って、そのまま大学に行って話せた人たちには昨日の出来事を伝えた。みんなこわがっていたけど、誰もわたしの気持ちをわかってくれるひとはいなかった。そりゃそうか。
そういえば、あの得体のしれない存在は、わたしの存在がこわくはないのかな。
同じ顔をした違う人間、なんて、どう考えてもおかしいでしょ。
そんな思いで自宅に戻ると、今まで履いていた靴がもう一足置いてあって思考が停止した。
……なんで。何…?
これはいつもはコウの家に置いてある三万円のローファー。奮発して買ったお気に入りのブランドのもの。二足は買えないから大切に履いていた。
わたしのと同じように片側だけ靴底が擦れている。
─── まさか、そんなはず。
「おかえり、しろちゃん」
「……な、んで……」
わたしのキッチンを通り過ぎた先のドアから出てきた、同じ顔。
「わたしに会いたいんじゃないかと思ってせっかく出向いてあげたんだからもっと歓迎してよ」
「鍵…っ」
「コウから盗んじゃった」