きみはわたしの地獄
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キーケースとわたしの家の鍵を失くしてしまったとコウから連絡がきた。
だけどあいつが盗んでいたとは言いづらかった。家に来られた話もしていない。きっと自分のせいにすると思うから、言えなかった。
コウとデートをして家に帰る。鍵を開けようとしたら「しろちゃん」と後ろから呼ばれた。
苗字を切り取った呼びかたをされるのはめずらしい。あまりされてこなかったから、あいつだとすぐにわかった。
「…なに」
「今日もお泊り会しよー」
「……」
いやなんですけど。
そう言おうとしたのに強引にドアを引き中に入っていく。
今日も同じ服装だった。髪型もそう。いつどうやってどこからわたしのその日のコーディネートをチェックしてるんだろう。
「今日しろちゃんが好きなお惣菜屋さんでおかず買ってきたからごはんだけ炊いて食べよ」
なんで知ってんだよ。
「…さきお風呂入るから準備しといて」
「自分の容姿だからけっこう気兼ねなくいられるでしょ。しろちゃんって八方美人だしね」
嫌味っぽい。だけど、誰からも指摘されたことのないくらい自分のなかでつくられてきたそれを見破られ、逃げるようにお風呂に入った。
鏡に映る自分の顔が、あいつのように思えてくる。
双子じゃない。生き別れの姉妹もいない。じゃあ、なに。
わたしに成りたいって、なに。
どうしてわたしになりたいの。こわくて、どんな答えが返ってきても理解も納得もできそうになくて、聞けない。