きみはわたしの地獄


その奥にあるのは何。わたしになって、何がしたいの。どうなりたいの。これを知って、わたしはどうするの。



「ぼくはただ……しろちゃんのことが、好きなだけだよ」


か細く、すぐに溶けてしまいそうな、雪のような声だった。


「ぼくは、しろちゃんのことが、ずっと好きだった」


好きだから、何。

なんの理由にもならない。理解はいっそうできなくなっていく。

それなのにどうして。



まるでその言葉に、さっきまでの怒りや嫌悪を盗まれたみたいに、目の前の存在を肯定する理由が欲しくなってしまった。


呆然と見上げると、くちびるが降りてきた。ゆっくりとした行動だったのに避けられなかった。

突き飛ばそうとした手は後ろでひとつに捕まり、もう片方の手は後頭部を固定してくる。


何が起きているんだろう。

されるがままになっちゃだめだ。離れて、もう一度近いてこようとしたから顔を背ける。


「ひ、ぁ…ッ………」


べろりと舐められた左がわの頸のつけ根。

文句を言おうと顔を上げれば、またくちびるが塞がれた。


口内に侵入してくる熱い異物。

暴れようとすれば後ろで拘束されている腕を引っ張られ、その場に倒れ込む。


「ちゃんと舌絡めて」

「やっ……!」


歯をなぞられ、喉奥まで吸いつかれ、それを伝って頭のなかまで刺激される。いつの間にか腕はほどかれていたのに、耳を這う冷たい指に逆らえず、身体のちからが抜けていく。

どれほどそうしていただろうか。

糸を引きながら離れていく、自分と同じ顔。


「世界で一番かわいい、しろちゃん」


わたしのすべてをこれから奪っていくような気がして、こわかった。


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