きみはわたしの地獄


何か思い出すかもしれない。いや、思い出さないといけない。縋るような、何かが迫ってくるような、そんな気持ちで目を凝らした。

同じクラスになったことがある懐かしい顔のことも、隣のクラスのやんちゃくんのことも、優等生だった子のことも、だんだんと記憶を取り戻していく。


最後のクラスまで見て、ふと、あることに気づいた。



「……同じ名前の男の子が、いたはずなんだけど…」


わたしがしろちゃんと呼ばれはじめる理由になった男の子——— 昴くん。


「いたっけ?」

「……すばる、くん」

「ああ、しろちゃん、そういえばすばるって名前だもんね!」


それくらいそのあだ名は浸透していた。



少しずつ、その男の子のことが、蘇ってくる。「わたしたち同じ名前なんだよ」「ぼく、この名前きらい…」「どうして?わたしは好き。かっこいいしかわいいもん。すばるくんにも好きになってほしい。みんなから呼ばれたら好きになるかも」「そうかなあ…」「わたしが名前、譲ってあげる!」「じゃあ…きみのことは、しろちゃんって呼ぶね」って……。



「すばるくん、そういえばいたね。なんか途中からお家がごたごたしちゃったみたいで不登校になって、そのまま行方知らずだった気がする」

「……」

「ほら、すばるくん家、おかしかったから」


わたしも、昴くんの家は苦手だった。

傍を通るとにおいがきついし、昴くんはいつもぼろぼろの服を着ていて、傷がある日もあって、髪は乱れていて、給食のお金はいつも払ってなくて先生に叱られていて、昴くんのせいじゃないのにって、思ってた。


卒業アルバムに載っていない顔写真と名前。

だけど、覚えてる。知ってる。どうして気づかなかったんだろう。

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