きみはわたしの地獄
途中から嫌な予感というか、気色悪い感じはしてたんだ。最寄り駅も向かう方向も、わたしの家と同じだったから。
だけどまさか、隣の部屋に住んでたなんて思わないでしょ。
「ほんっっっっっとうに意味が解らないし気持ち悪いんだけど」
間取りも同じ。家具も同じ。何もかも同じ。わたしの部屋にいるみたい。ふつうここまでする?ふつうじゃないのか。
心の底からにじみ出てくる嫌悪感を隠すことなく全面に出しながら言うと彼は肩をすくめた。
「そう言わないでよ。しろちゃんになりたいだけなんだよ」
「わたしになってどうするの?人生乗っ取りたいの?殺して成り代わりたいの?」
「好きな子のこと殺すわけないでしょ」
バカじゃないの、みたいな表情をされる。わたし変なこと言ってないよね。なんで変なこと言ったような感じにされなきゃならないの。
「わたしのことが好きなら、困らせるようなことも、こわがらせるようなこともふつうしないでしょ!」
「そんなつもりないんだってば。ただしろちゃんになって、家族や恋人やお友達にしろちゃんとして愛されたいだけなの」
「だけなの、じゃないから。わたしがわたしだからみんな愛してくれるの。昴くんがわたしになったって、わたしじゃないんだから同じ愛をもらえるわけないでしょ」
当たり前のこと。正直なこと。それを言っただけなのに、彼はとんでもなく傷ついたような目でわたしを見てくるから、言いすぎたかな…と口を閉じてしまう。
決してそんなことないはずなのに。傷つけたいわけじゃないのに。
「……しろちゃんは、みんなから愛してもらえる子。あのころ家のことで疎外されてたぼくに、たったひとり話しかけてくれた、心まで綺麗な優しい子」
まるで昴くんは、昴くんのままじゃ愛してもらえないみたいな言い方だ。
「そんな自分のこと、しろちゃんは大好きだ。自信を持ってる。かっこよくて、優しくて、真っ直ぐで…ぼくとは、ぜんぜんちがう」
「昴くんとわたしは、ちがうでしょ…」
「だからぼくのこと、しろちゃんは思い出してもくれなかった。どうでも良い存在って感じだ」
実際に、そうだった。
だから何も言い返せない。