きみはわたしの地獄


昴くんとはどうして話すようになったかはよく覚えてない。

他の友達だってそうだ。自然と仲良くなって、友達や恋人になって、一生繋がっていけるような深い仲になる人もいれば名前だけ憶えてるとか、そういえばどうしてるだろうかとか、ふと思い出す人もいる。まったく思い出さないくらい、疎遠になっている人もたくさんいるんだろう。


そんなの、意識もせず、無意識に、日々のなかでかたちを変えていくから、だから昴くんのことは、確かについさっきまで頭のなかの果てにいた。


「ぼくがしろちゃんになれば、しろちゃんはぼくのこと、好きになってくれる」

「わたしは…わたしのことを好きでいてくれる人たちがいるから、自分に自信が持てる。自分を好きになれる。肯定できる。誰かがわたしになったって、それはわたしじゃない」

「そんなしろちゃんに、ぼくは成りたい」

「…だから、そうじゃなくて」


なんでわからないの。

わたしもあんたのこと、ぜんぜんわからないけど。



「今まで得体の知れないあんたがこわかった。自分と同じ容姿なのに、それも含めて全部がこわかった。だけど正体が昴くんだってわかったら、こわくなくなったよ」


わすれていて、ごめんね。

思い出さなくて、ごめんね。


一緒の傘で帰ったこと。傘を半分貸してくれたこと。あだ名をつけてくれたこと。同じ名前だったこと。

きみはもしかしたら…たくさん傷ついて、苦しんで、淋しい思いをしているのかもしれないと、あの頃肌で感じていたこと。

せめて学校にいる間だけでもきみが笑えるようにと、傍にいたこと。友達だったこと。気弱だけど優しいしゃべりかたをする昴くんのことが好きだったこと。ひとつきっかけがあったらいっぱい浮かんでくるきみとの日々。

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