きみはわたしの地獄
人付き合いが上手い自分。それと同じくらい、心のなかで、何かを選別してきた自分が、いるような気がしてくる。
わたしと同じ容姿をした、べつの人間。
わたしに成りたいらしい、べつの人間。
それに出会っただけで、今までの自分が、はらはらと削られていく。
音を立てて崩れることもない。だって、薄っぺらくて、深みも重みもない。
――― だめだ、考えるな。
わたしはわたしだ。今まで自分に満足してきた。何も悪いことはしてない。自分が思い描く理想どおりの生きかたをして楽しく生きてきた。これからもそれでよかった。そんなこと考えもしないで、城木澄春は存在していた。
ねえ、昴くん。
感傷に浸って甘えたいわたしを「らしくない」とみんなが笑う。
何もかも見透かすように、就活はうまくいかない。
自然と大人になっていく、と言い訳しているだけ。
これがわたしだとあきらめて、逆らうことも溺れることもないまま、理想に沿って。
汚い言葉を使うことも人の道を外れた行動をすることも、わたしには勇気がなかったからできなかっただけ。
「……っ、ごめん、帰る」
「え、澄春?」
コウを押しのけ、手探りで荷物を掴む。
――― こわい。
自分がからっぽな気がして。
何も残らない気がして。
だって、何もないから。
昴くん。
昴くん。
あの頃、わたしが昴くんに話しかけたのは。
ドアを叩くと昴くんが内側からそこを開けた。
わたしとちがう服を着てる。今日は出かけなかったらしい。
そんなことどうでもよくて。
昴くんのせいだよ。
こんな自分に気づきたくなかった。
「昴くん……わたしのこと、すごいって思って」
あの頃、昴くんの家は蒸発寸前の錆びれた家庭で。それが地域中にうわさとして広まっていて、みんな昴くんとは仲良くしてはいけないと親から言われていたんだろう。
だけどわたしの家族はちがった。「澄春はえらいから、昴くんを仲間外れにしちゃだめよ」って、そう言った。