きみはわたしの地獄
だからわたしは昴くんの話しかけた。そうすれば家族に褒めてもらえる。他のクラスメイトに「すごい」と思ってもらえる。昴くんにも優しい子だと思ってもらえる。——— わたしより、昴くんが、劣っていると思ったからだ。
わたしと同じ容姿をしている人。
こわかった。不気味だった。気色悪かった。気持ち悪かった。それは、わたしを脅かす存在だと思ったから。
だけど同じくらい、引き付けられるような感覚があった。それは、わたしへの憧れを感じられたから。
わたしを肯定してくれる、写し絵のような存在。
ゆるぎないそれを、どうしようもなく手放したくないと思ったから、彼が家に来たこともわたしのふりをして家族に会われたことも誰にも言わなかった。
わたしでいいんだと、思わせてくれる。
「いつも、いつだって思ってるよ。しろちゃんは、ぼくにとって、なんでも一番なんだ」
「……たとえば…?」
「この前も言ったとおり、かっこいいのも、優しいのも、可愛いのも、なんでもそう。ぼくの一番の存在なんだよ」
「真似したいくらい…?」
「うん。しろちゃんに成りたいって思うくらい、好き」
「……わたしが、嫌な子でも?」
「嫌な子なんかじゃない。しろちゃんは、大丈夫だよ」
気づけば、涙が落ちて止まらなくなった。
だけど彼は泣いてなくて、代わりにわたしの頬を何度も何度も拭って、しまいにはべろりと舐めてきた。
やめてよって言いたかったけど、がんばってなぐさめようとして「しろちゃん」「大丈夫だよ」「しろちゃん」「好きだよ」「しろちゃんが一番すごいよ」って、思いつく限りの言葉をかけてくれるから言えなかった。
誰からの愛ともちがう。
気持ち悪くて、最悪で、気色悪いほど、理解できない…‥彼だけのなかにある、わたしだけに宛てられた特別な気持ち。
それにすがりたいような気持ちになって、背伸びをする。