きみはわたしの地獄


だけど三年言われ続けると人って慣れるもので、この話も淡々とできるようになった。


「絶対澄春だったけどなあ。そりゃこんな美人が何人もいたら男は喜ぶだろうけど」

「え、なになに、城木のドッペルゲンガー?そんなんいたらめっちゃありがたいな」

「でもドッペルゲンガーってちょっとこわいよね」

「ああ、ドッペルゲンガーを本人が見ると死ぬっていうよな」

「うわー、澄春やばいじゃん!」

「あたしにもいたらどうしよう!」

「こわすぎ。ま、でも見間違えでしょ」



ドッペルゲンガーは自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種だ。見た本人は死ぬ。かと言って二回見ると見た人も死ぬって特徴もあるらしい。自己像幻視じゃないのかよ。


こわい逸話を並べて、美人だっておだてるくせに、みんな他人事。わたしのことを本気で心配する人はいないし、見間違いで処理される。

もしわたしも自分じゃなくて他人の話だったらみんなと同じ反応をしてたと思うから責める気はない。べつに期待もしてないしね。



お開きになる前に予想した金額を置いてお店を出た。


渋谷に六本木……一週間前は横浜、一か月前は築地。生臭いところ苦手だから行くわけない。

夏休みは福岡と京都に出没していたらしいけど、わたしは実家の秋田とコウの実家の鹿児島で満喫していたからそれもわたしじゃない。


こういうのが三年間。気持ち悪い。こわい。だけどそれを通り越して、次はどこで誰とそいつは過ごすんだろう、なんて考えている。こういうのって楽しんだほうが自分がラクになれる。


とはいえ、さすがに、みんなの目が「コウくんがいるのに」「就活余裕かよ」って言ってたからちょっと困った。この時期は大人しくしててもらいたいものだ。

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