きみはわたしの地獄


大学の最寄り駅から三つ下って駅から徒歩十分圏内にある水色のアパート。外に露出した階段を上がって角の部屋がわたしのひとり暮らしの家。

明日の夜コウが来るから掃除しておかないと。昼間は面接。前は練習してたけど最近は用意しておくほうが後々ボロが出るタイプだとわかってやめた。


水を飲んでお風呂の準備をしていると携帯が鳴った。コウかと思ったけどお母さんからだった。

野菜とお米を送ったから、という内容の電話だった。いつもちょうど食材が切れるタイミングでそうしてくれる家族にはとても助けられている。



「ねえお母さん、あのさ、わたしまた行ってもない場所で見たって言われたんだけど…」

「え、また?あんたの顔、けっこういるのかねえ」


のん気だなあ。


「本当に、わたしにお姉ちゃんとか妹はいないんだよね?」

「いるわけないってば」


まあ、いないけれど。小さいころの写真や動画を見ても映っているのはわたしだけ。親戚は年上ばかりだし、似ている人はいない。


「生き別れたお姉ちゃんとか妹とか…実は双子だったけど片方は誰かにあげちゃったとか…」

「いないって何度も言ってるでしょう。映画の見すぎよ」


映画やドラマはあまり見ない。本は好きだけど好みは謎解きミステリー小説。

内容をおもしろくするエッセンスにはなるかもしれないけれど、そんなメロドラマみたいな話あるわけないって何度も否定されている。お母さんやお父さん、その両方の祖父母や親戚たちにも聞いたけど答えはそろって「ありえない」とのこと。


だからそういう存在はいないことは確かだろうけど、それでももし本当に実は双子の姉妹がいたりなんかしたら、ちょっとうれしいなって思うわたしものん気なのかもしれない。

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