きみはわたしの地獄
第一希望の会社は大手出版社。長年愛読している謎解きシリーズ作品の単行本を発売していて憧れていた。
単純な動機だけど特にやりたいこともないやつからすれば大げさだけど藁にも縋りたいような気持ちだ。
練習はしていないけれど準備はしてきた。対策もしてきた。圧迫でもなんでもどんと来い。最終面接までの遠かった道のりを振り返りながらも、がんばりたい。
そんな強い意思で臨んだ、はずだった。
わたしに対して面接官は四人。お偉いさんたち。だけど圧迫ではなさそう…とほっとしたのもつかの間、内一人は目が合うなり、怯えるように表情を歪めた。
何か粗相があっただろうか。だけどまだ自己紹介しかしていない。その人の隣の面接官に言われるがまま志望動機と自己PRを声に置き換える。…だけど集中できない。
だって、あの人、どう見たって様子がおかしい。
こっちが汗をかきたいくらい緊張しているのに、なんで。大手出版社で地位のある40代くらいの男性から滝のように汗が垂れて机に水たまりをつくる光景は、歪で、何にも喩えることができない恐怖があった。
どうにか乗り切り「ありがとうございます」と上半身を折り曲げる。そこから悟られないよう、だけど逃げるみたいに面接会場を出た。
なんだったんだろう。自己紹介が変だった、なんて、とても思えない様子だった。
確かにわたしを見て震えていた。
気になったけどエレベーターに乗る。乗ろうとした。それを汗ばんだ手によって引き留められる。
振り向くとさっきの面接官がいた。