きみはわたしの地獄



「一昨日は騙しやがって……俺には妻子がいるんだぞ!バレたらどうしてくれるんだ!!」



まわりにはほかの就活生がいた。

従業員もいた。

今にも掴みかかってきそうなその人を、さっきまでわたしの面接をしてくれていた他のお偉いさんたちが止めるのを見て、こんな身に覚えのない何かで落とされるなんてと泣きそうになったけど必死に堪える。


何もしていない。一昨日は大学の自習室で勉強をしていた。その人とは今日初めて会った。


まるで警察が容疑者にする取り調べみたいだと、小説で読んだシーンと似ていたのか思った。大学に連絡が行き自習室にいたことは証明されても尚、彼らはわたしに対して、もう良い顔をしてはくれなかった。



『大人といえば、澄春、昨日サラリーマンと腕組んで歩いてたけどコウくんと別れちゃったの?』


渋谷のセンター街でわたしではないわたしを見かけたと言っていた友達の言葉が、ただ頭のなかをぐるぐると巡っている。



疲れた足でどうにか家に着くと、すでに合い鍵で中にいるはずのコウがいなかった。

さすがに今日は堪えたから話を聞いてもらおうとしたのに…と電話をかけたけど繋がらない。連絡も来てない。

バイトが長引いているのかも。そう思っているとコウのバイト先の人から電話が鳴った。


「あ、澄春ちゃん?コウくん携帯忘れてってるから取りに来てって伝えてもらえる?」

「…え、まだそっちにいるんじゃないんですか?」


じゃあ大学かな。連絡が来なかったのは携帯わすれたからだったんだ。ドジだなあ。

電話口でけらけら笑い声が聞こえてくる。


「何言ってるの。さっきここにコウくんのこと迎えに来てたじゃん」


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