最低で最高のホワイトデーを
何かあったのかな、と少し不安になっていたけど、すぐに耳元で「もしもし?」という勝理くんのどこか眠そうな声がしてホッとする。

「勝理くん、今どこ?もうそろそろ映画館に入らないと、ドリンクとか買えなくなっちゃうよ」

私がそう言うと、「ごめん、今日無理だわ」と勝理くんはすぐに返してくる。えっ?今何て言ったの?ジャックで一瞬わからなくなる。

「俺さ、昨日徹夜でレポート書いてたわけ。だから寝不足でさ〜。デートはまた今度にしよ〜」

そう一方的に言い、プツリと通話が勝手に終了される。私はデートがなくなったことにその場にしゃがみ込みたくなる。やっとは久々に会えると思ったのに……。情けないけど、泣いてしまいそうだ。

俯き、映画のチケットどうしようかなと考えていると、「希?」と不意に肩を叩かれる。

もし、これがモデル仲間だったり大学の友人なら、私だとバレないうちに逃げる。カッコ悪いところを見せたくないから。でも、よく知っているその声に、私は普段人に見せない弱った顔を見せることができた。
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