隣の部屋の新人くん
駅に着くと、すぐそこに坂口くんの姿を見つける。

パーカーにブルゾン、リラックスしたスラックス。

ああ、佳弥と全然違う。
男の子だ。

私は少しの緊張を感じながら近づく。
と、数メートルの距離を挟んでバチッと目が合った。

ああ、白いワンピースなんて気合い入れてきたと思われる。

坂口くんが笑って姿勢を正す。

いつも隣で映画を観てるのに、仕事でも見るのに、なんで今日はこんなに緊張するんだろう。

「おはよう」
「おはようございます」

お互いの恰好を上から下まで見る。

「そんなに見ないで」

私が言うと、坂口くんが笑う。

「かわいいから見ただけじゃないですか」

不意打ちの誉め言葉を、真に受ける自分。
一気に顔が赤くなるのが自分でも分かった。

「ねえ、ごめん、言ってもいい?」
「なんですか」

私はいっそのこと思い切って言ってみる。

「私ね、今日、なんか分からないけどすごく緊張してるの」

照れ隠しに笑ってみた。
坂口くんも笑顔が固まって、一気に耳が赤くなる。

あ、なんか変なこと言っちゃったかな。

そう思っていたら、くしゃくしゃに笑ってくれた。

「俺も、すーごい緊張してます、今」

そう言って、「はい」と右手を差し出される。
突然のことに反応が止まる私。

「はい」

坂口くんがそう言って私の左手を取る。

デートが始まった。
行き先は、坂口くんが行ったことのない、みなとみらい。
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