隣の部屋の新人くん
観覧車がてっぺんに近づく。

なんで観覧車って何かを期待しちゃうんだろう。

坂口くんが少しだけ距離を縮めてきた。
繋がれた手と手が、太ももの間に置かれる。
腕が当たって、思わず顔を向けた。

すごく近い距離で目が合う。
坂口くんも、私も、目を逸らせずにいた。

ゆっくり坂口くんが私の顔を覗き込むように、顔を近づけてくる。

私も目をゆっくり閉じた。

けど、何か気配のようなものが心に引っかかる。

「待って」

私が止める。
寸前で止まった坂口くんの唇。

「後ろのゴンドラから、丸見え」

私が言うと、坂口くんが慌てたように後ろを振り向いた。

後ろには、同じような男女が距離を保って座っている。

姿勢を正す坂口くん。
身体は少し離れたけど、手は繋がれたままだった。

そんな坂口くんの顔を見ると、照れたように笑って返してくれた。

続きがしたい。
素直にそう思った。

後ろのゴンドラが見えなくなってからも、私たちは何をするということもなく、たまにポツポツと会話をした。
私たちを乗せた観覧車は一周してしまった。
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