隣の部屋の新人くん
夜、8時過ぎ。

坂口くんから届く「今から行っていいですか」が、いつもと違う空気を帯びている。

インターホンが鳴って、ドアを開けると、部屋着に着替えた坂口くんがいた。

少しシャンプーの香りがする。

部屋に上げると、慣れたようにテーブルに並んで座る。

坂口くんはいつも私の部屋に来ると、最初にタッセルのついたクッションをお腹に当てる。

2つのコップに350mlの缶チューハイを注いだ。

トンと、坂口くんの前に置く。

乾杯をした。
何の乾杯だろう。

「ねえ、なんで」

そこまで言って、続く言葉に迷う。

なんで海外希望したの?

なんで決まってたのに、私に言ってくれなかったの?

なんで決まってたのに、好きとか言うの?

なんで、と思えば思うほど自分が小さな人間であることに気付く。
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