隣の部屋の新人くん
ベッドの中で、坂口くんが私の髪を数本つまむ。

「思い出作りってわけじゃないけど、旅行行きたいです」

たまに当たってる坂口くんの肌が温かい。

「いいよ、いこう」

目が合うと、坂口くんが私の頭をくしゃくしゃに撫でた。
髪がぐじゃぐじゃになる。

そして笑って言った。

「もう泣くのやめてください」

そう、私は今日、ずっと心の中で泣いていた。

坂口くんは笑って抱き寄せてくれた。

「海行きたいです、俺」

それが坂口くんの最後のワガママだった。

6月の最後の週、私たちは海辺の町に行くことにした。
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