テスター
☆☆☆

あたしの家は両親とあたしの3人暮らしだ。


父親はIT企業の重役で、そこそこ裕福な生活ができているらしい。


お母さんは料理上手で、SNSでオリジナルレシピを公開して人気を博し、今度料理本を出すことも決まっている。


2人ともそれなりに充実した人生を送っている。


「お帰り千紗。今日は久典君に送ってもらったのね」


リビングへ入った瞬間ニヤけ顔のお母さんにそういわれた。


どうやら窓から見えていたみたいだ。


「ちょっと送ってもらっただけだよ」


「家に上がってもらえばよかったのに」


「そんなんじゃないからいいの」


お母さんは子供みたいにあたしと久典の関係に興味を持っている。


一人娘なんだからと言うけれど、久典のことを気に入っているからだと思う。


「それよりお母さんテスターって知ってる?」


「お化粧品のこと?」


「違うよ。そう呼ばれている女の人がいるらしくてね、美少女を誘拐して顔を付け替えちゃうんだって」


「なにそれ、気持ち悪い」


顔をしかめるお母さんはテスターについてなにも知らないみたいだ。


家の中で一番SNSを活用しているお母さんが知らないということは、郁乃が嘘をついているのかもしれない。


あたしは軽く肩をすくめて、テーブルの上のクッキーに手を伸ばしたのだった。
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