テスター
そして、一ヶ月前のあの日。


私はひとり残業をしていて、学校を出るのが遅くなった。


綺麗な2人の教師はさっさと帰ってしまったのに、私だけ……。


ひとりで残業をする間にその黒い感情はぶくぶくと膨れ上がっていた。


やっとの思いで仕事を終わらせて車に乗り込み、道を走らせる。


「どうして私だけ。どうして私だけ」


ブツブツと呟きながら運転していると他校の女子生徒たひとりで下校している姿を見つけた。


ラケットを持っているから、部活で遅くなったんだろう。


横を通り過ぎて、何気なくバックミラーで顔を確認する。


その瞬間可愛いと感じた。


整った輪郭、スッと通った鼻筋、大きな目。


私とはまるで正反対な容姿に思わずブレーキを踏んだ。


女子生徒は少し不振そうな表情を浮かべて車の横を通り過ぎていく。


あの子は私とは違うから、きっと円滑な人生を歩んでいることだろう。


部活でも、教室でもちやほやされているのかもしれない。


そしてこれからの人生もきっと……。


そう考えたとき、自然とアクセルを踏んでいた。


ハンドルを握る手に力がこもる。


ライトが少女の姿を浮かび上がらせ、それに向けてハンドルを切る。


私はなにをしてるんだろう?


これは両親から教わったことのないことだ。


真面目ともかけ離れた好意。


それでも途中でやめることはできなかった。
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