テスター
「千紗、聞いた?」


郁乃が近づいてきてそう聞いてきたので、あたしはキョトンとして郁乃を見つめた。


なんのことだろう?


「今日転校生が来るんだって」


「え、このクラスに?」


「そうみたい」


そう言われて視線を智恵理と栞の机に向けると、いつの間にか花瓶は撤去されていた。


数えてみると机の数は1つだけ減っている。


それを見て思わず顔をしかめてしまった。


まだ事件から一ヶ月しかたっていないのに、もう過去のことになり始めている事実に焦燥感を覚える。


「……仕方ないよ。花瓶があると転校生だって気にするだろうし」


「うん。わかってる」


郁乃の言葉にうなづくが、それでもやはり納得できない心境だった。


あたしたちが経験したことは、本当にこのまま劣化していってしまうんだろうか。
それでいいんだろうか。


テスターの事件は谷津先生の悲痛な思いが原因だった。


先生がそんな気持ちになったのは、あたしたち生徒の責任でもある。
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