テスター
2人がいなくなった後も、あたしはその場から動くことができなかった。


飯田さんは危険だ。


だけど今まであれほどの敵意を向けられた経験がないから、どう対応していいかわからない。


なにより……。


あたしは自分の足元に視線を落とした。


あたしは今自分に自信がないのだ。


谷津先生が言っていた通り、あたしは自分の魅力の上に胡坐をかいていきてきた。


その魅力が失われた今、堂々とした態度をとることができなくなってしまった。


「千紗、ぼーっとしてどうしたの?」


そう声をかけられてようやく我に返った。


「郁乃……」


「さっき廊下で久典君と飯田さんを見かけたけど、大丈夫なの? あの2人、腕を組んで歩いてたよ?」


そう聞かされて胸の置くがズキリと音を立てる。


自信だ。


飯田さんにある大きな自信がそういう行動に繋がっているんだと思う。


「千紗、しっかりしなよ! 久典君の彼女は千紗なんだから」


「そ、そうだね」


あたしは大きくうなづいて、慌てて廊下へ飛び出したのだった。
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