テスター
郁乃はチラリと久典へ視線を向け、そして頬を赤くした。


なんてわかりやすいんだろう。


あたしたちに話しかけることで、少しでも久典に気がついてもらうとしている。


そんな郁乃の前で、あたしは久典の手を握り締めた。


久典も握り返してくれる。


その瞬間、郁乃の表情がこわばった。


笑ってしまいそうになるほどわかりやすい反応だ。


からかってやるつもりで更に久典に体を寄せた、そのときだった。


「テスターが来るよ」


と、郁乃が一言言ったのだ。


言葉の意味がわからなくて、あたしは動きを止めて郁乃を見つめた。


「テスター? なにそれ」


聞いたのは栞だった。


首をかしげている。


「知らないの? テスターは理想の顔を捜して、美少女を誘拐している女だよ」


「なにそれ? 誘拐犯の話?」


「それだけじゃない。テスターは美少女の顔のパーツを切り取って、自分の顔に縫い付けるんだよ。そうやって、自分に合うかどうかテストしてるから、テスターって呼ばれてる」
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