テスター
「綺麗な胸ね」


テスターが郁乃へ向けて笑いかける。


「やめて……」


郁乃は左右に首を振る。


胸なんて切り取られたらそれこそすぐに死んでしまう。


「そうだよ。胸を取り替えるなんて、頭おかしいんじゃないの!?」


横から声を上げるが、やはりテスターは動じない。


袋の中からナイフを取り出して刃先の血を指先で落としはじめた。


あれは智恵理の顔の皮膚を切り裂いたときに使ったものだ。


「これ、まだ切れるかしら?」


テスターは首をかしげて郁乃に近づいていく。


血がこびりついたままの刃は少し切れ味が悪くなっているようで、郁乃の胸を安易には切り裂かない。


「あああああああ!」


弱った刃を押し当てられた郁乃は痛みに絶叫を上げた。


その悲鳴は鼓膜をつんざき、テスターは顔をしかめた。


「やっぱりこれじゃダメね。あたらしいのを用意しないと」


ぶつぶつと文句を言いながら、ナイフを袋に戻す。


それを見てホッと息を吐き出した。


ひとまずは諦めてくれたみたいだ。
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