規制アプリ
☆☆☆

咄嗟に遺書を持ち帰ってしまったあたしは、そのまま自室に戻ってきていた。


外では救急車とパトカーのサイレンが鳴り響いている。


その音を聞きながら、震える手で伊代の遺書を開く。


今目撃してきた光景はまるでリアリティがなくて、まだ夢の中にいるような感覚だった。


この遺書だって、本当は伊代の冗談で書かれたものではないかと考えている。


でも、マンションを降りたときに見た伊代の体は紛れもなく本物だった。


広がった血も、歪んだ体も、そこだけはリアルにあたしの脳裏に焼きついていた。


「はぁ……」


あたしは1度大きく息を吐き出し、覚悟を決めると遺書を開いた。


そこに書かれていたのは間違いなく、伊代の文字だった。


ごめんなさい。


から始まる手紙に胸が痛む。


その痛みをこらえながら読み進めていくと、そこには学校内で行われていた数々のイジメについてが記されていた。


比ゆ表現など曖昧なものは書かれていない。


すべてが明確に、相手の名前までしっかりと記されていたのだ。


《野口重行のけしかけによって、来栖樹里からお金を奪われる。
その額1万円》


《羽角蕾に体操着を切り刻まれる》


《小保方一樹にタバコを押し付けられる》


数々の拷問とも呼べるイジメ内容に、遺書を持つ手は震えていた。
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