規制アプリ
真面目な前田さんなら、噂が嘘であればそう言うはずだとみんなわかっているのだ。


クラス全体があたしのことを恨んでいるような雰囲気が漂い始めて、あたしはトイレに立った。


さすがに呼吸が苦しく、居場所がないと感じられた。


トイレの鏡で自分の顔を確認すると、ひどく青ざめている。


あたしは冷たい水で顔を洗い、更に両手で自分の頬を叩いた。


ペチンッと軽い音がトイレの中に響く。


「あたしは大丈夫」


鏡の中の自分へ向けて呟く。


気合を入れなおして教室へ戻ったとき、真っ先に樹里と視線がぶつかった。


樹里の表情は明るくて、それを見た瞬間嫌な予感が胸をよぎった。


あたしは教室後方にあるロッカーを先に確認した。


体育館シューズと体操着を入れてあるが、特に変化は見られなかった。


安心しつつ、視線を自分の席に移動させた。


さっき椅子はちゃんと机の下に入れて教室を出たが、椅子の位置がずれているのがわかった。


咄嗟に息を飲む。


机に近づくにつれて自分の表情が険しくなっていくのを感じた。


そして目の前まで来たとき、甘い臭いが鼻腔をくすぐった。


それは缶コーヒーの臭いで間違いなかった。


しかし、机の上に異変はない。


かがみこんで中を確認してみると、臭いはきつくなった。


同時に樹里たちの大きな笑い声が聞こえてきて振り向く。


樹里たちがあたしの反応を見て大声で笑っている。
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