規制アプリ
あたしは奥歯をかみ締めて机の中に手を入れた。


教科書に手が触れた瞬間、ぐっしょりと塗れた感触があった。


そのまま引きずり出すと茶色い液体で汚れていて、読めたものではなかった。


それ以外にもノートやペンケースもすべてコーヒーにまみれている。


汚れたものを床に落とすたびに、ビチャッと重たい音がした。


缶コーヒー一本でここまで汚れるとは思えない。


樹里たちが何本ものコーヒーをあたしの机の中に入れた光景が浮かんでくるようだった。


汚れた教科書やノートをすべてゴミ箱に捨てて、ペンケースは中身を取り出して使えるかどうかと確認した。


雑巾で机の中を拭き、布製のペンケースは水道で洗う。


一連のことをただ無言で、誰にも頼らずに行う。


その間にも笑い声は絶えず聞こえてきていて、時折あたしを罵倒する声も混ざった。


「当然の結果だよね」


「あの前田さんの泣かせたんだもんね」


「前田さん可愛そう」


そう言われれば言われるほど、前田さんがカゲの女王なのではないかとかんぐってしまう。


だけど違うはずだ。


あの紙に、前田さんの名前は書かれていなかったのだから。
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