規制アプリ
「でもさ、鏡が怖くてトイレに入れないってことを樹里が知ったら、どうなるんだろうね」


あたしは感情をこめないように言葉を噤む。


一瞬、蕾が息を飲む音が聞こえてきた。


樹里に知られることが蕾にとっては一番の恐怖に違いない。


昨日のしりとりで重行をターゲットにしたこともあり、その恐ろしさはすでにわかっているのだ。


樹里は簡単に仲間を裏切る。


いや、もしかしたら仲間だとも思っていないかもしれない。


「い、言わないで!」


蕾が青ざめて懇願する。


このあたしにそんな風にお願いしてくる姿がおかしくて、笑ってしまった。


「いいよ、黙っていてあげる」


「ほ、本当に?」


あたしの一言で蕾は安心したように笑顔になった。


人の一挙一動でここまで変化するなんて、格になる自分をもっていない証拠だ。


「だけどトイレに入れないのは不便じゃないの?」


聞くと蕾は黙り込んでしまった。


このまま放課後までトイレに行かずに過ごすことは難しいだろう。


「まぁ、あたしには関係ないけど。確か職員室のトイレは鏡がなかった気がする」


あたしはわざと呟くようにそう言って、B組へと戻ったのだった。
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