規制アプリ
「うん、そうだね……」


蕾はそう返事としてよろよろと立ち上がった。


それを見ていた前田さんが慌てて駆け寄っていく。


「大丈夫?」


「うん」


「肩、貸すから」


前田さんに支えられてようやく教室を出て行く蕾。


あたしはその姿を見送って首をかしげた。


このクラスに転校してきてから、前田さんの存在だけはなぞに包まれていた。


誰に対しても優しくて、手を差し伸べてくれる。


悪口にも参加しないし、樹里にとってはうっとうしい存在のはずだ。


でも、樹里は前田さんのことをないがしろにはしない。


今だって、2人で教室を出て行くのを見守っているだけだった。


「あ~あ、蕾の調子が悪いとつまんない」


樹里は大きなため息を吐き出して、一樹の首に両腕を絡めた。


暇になったから彼氏とイチャイチャしようとしているみたいだ。


途端に重行は行き場を失って自分の席へと戻っていく。


クラスのみんなも樹里たちから視線を外して、思い思いの時間を過ごしはじめた。


なんだ、もう終わりか。


蕾がいなくなったことで蕾への悪口が悪化するかと思っていたけれど、そういう展開にはならずにガッカリする。
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