記憶ゲーム
それでも立ち上がろうとしたとき、啓治が僕のふくらはぎを踏みつけた。


ギリギリと体重をかけられて痛みで顔が歪んでいく。


「なになに? 相手は隣のクラスのK子ちゃん? K子って、あの髪の長い?」


「きっとそうだよ! へぇ、お前4年生のときK子のことが好きだったのかよ!」


途端に顔がカッと熱くなるのを感じた。


図星だった。


隣のクラスのK子ちゃんは黒いツヤツヤの髪をしていて、目が大きくて可愛かった。


クラスでも人気者だったみたいで恋のライバルも多かった。


そんなK子ちゃんに告白しようと思い切れたのは、梨乃が背中を押してくれたからだった。


『告白に失敗したからって死ぬわけじゃないんだよ? それに、あたしは愛のいいところ沢山知ってるから大丈夫!』


思い出して、また胸が刺されたように痛くなった。


K子ちゃんのことを思い出したからじゃない、梨乃のことを思い出したからだった。


啓治と大夢の2人は僕の片思いの記憶で遊び始めたようで「今だ! K子ちゃんに声をかけろ!」とか「頑張れよ愛~」とか言いながら騒ぎ始めた。


こうなるともうどうしようもない。


僕は諦めて自分の席へと戻った。


そして、誰もいない梨乃の机に視線を向けるのだった。
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