記憶ゲーム
今の、なんだ?


啓治のあんな焦った声、聞いたことがなかった。


しばらく呆然として立ち尽くしていたがハッと我に返ってズボンを引き上げた。


適当に手を洗い、大急ぎで外へ転がりでる。


こけそうになりながら自転車を置いた場所へ向かったが、そこには啓治の姿がない。


「啓治、どこに言ったんだよ!?」


周囲を見回して声をかける。


自転車は置かれたままだ。


遠くへ行ってはいないはずだけど……。


ふと駐車場へ視線を移動させると、先生の車がなくなっていることに気がついた。


その瞬間サーッと血の気が引いていく音が自分にまで聞こえてきた。


「まさか……」


啓治まで、先生に誘拐されたんじゃ!?


僕はすぐにスマホを取り出して啓治に電話をかけなおした。


「頼む、出てくれ!」


その願いもむなしく、啓治はもう電話にでることはなかったのだった。
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