記憶ゲーム
啓治は僕の上に立ったまま言う。


「いや、でも僕は……」


途端にしどろもどろいになりはじめる大夢。


大夢はいつも啓治について回るばかりで、自分ではなにもしない。


それなのにいきなり殴れと言われるなんて思ってもいなかったのだろう。


混乱し、視線をさまよわせている。


「なんだよお前、できねぇのか！？」


啓治の声が教室の中に響く。


大夢がビクリと体を震わせて一歩後ずさりをした。


「ちょっと、やめなさいよ！」


そんな声が聞こえてきて、僕たちは同時に視線を向けた。


そこに立っていたのは梨乃……じゃなくて、学級委員の女子生徒だった。


おかっぱ頭で黒縁メガネをかけた彼女は青ざめ、震える声で発言してくれたのだ。


僕は驚いて彼女を見つめた。


クラスメートたちはたいてい見てみぬふりをしていたからだ。


「なんだよお前。真面目ぶって、今度は俺に立てつくのか？」


啓治の意識がそれた。


その瞬間を狙い、僕は啓治の右足を抱きしめるようにして両腕で持ち上げる。


「うわっ！？」


不意を疲れた啓治は体のバランスを崩し、そのまま後方へと倒れこんでいく。


大きくて筋肉質な啓治の体が途中で止まることなく、机や椅子を巻き込んで盛大にこけた。


僕はすぐに立ち上がり、後方へと走って逃げた。
< 8 / 133 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop