殺人感染
純也があたしの前に立ち、モップを両手で握りなおした。


「純也……」


「仕方がないことなんだ。俺が攻撃するから、すぐに取り押さえてくれ」


あたしはうなづくことしかできなかった。


雪を助けられるのはあたしたちだけだから。


やがて雪がこちらに気がついて走りだした。


あっという間に距離が縮まる。


「雪、ごめんな!」


純也は叫ぶと同時にモップを雪の腹部へと叩き込んだ。


雪の体がくの字に折れて、そのまま仰向けで倒れこむ。


すかさずかけより、あたしは雪の体の上に馬乗りになり、両手を押さえ込んだ。


雪があたしの下で暴れ周り、うめき声を上げる。


それは人間のものとは思えない奇声だった。


激しく頭を振り乱し、あたしに噛み付こうとしているのか口を大きく開閉する。


その力が強すぎて歯が欠け落ちるのが見えた。


このままじゃ雪が……!


これ以上雪を傷つけたくなくて「早く!」と、叫ぶ。


純也は刃物を取り出して雪の横で膝を突いた。


しかし、雪が激しく頭を振るからなかなか狙いが定まらない。


あたしはグッと両腕に力をこめて雪の手を押さえ込む。
< 105 / 138 >

この作品をシェア

pagetop