殺人感染
スピーカーをオンにして、マイクを持つ。


その手が微かに震えた。


「みなさん聞いてください。殺人鬼になった人たちを助ける方法が見つかりました」


あたしは勇気を振り絞り、マイクへ向けて言葉をつむいだ。


純也が隣であたしの手を握りしめてくれている。


「殺人鬼になった人たちは右耳に星型のアザがあります。そのアザを切り取ると、相手は普通の人間に戻ります」


あたしは同じ内容を2度繰り返して伝えた。


どのくらいの生徒たちが聞いてくれているかわからないけれど、少しでもいいから届けたかった。


「それから、これは感染症のようなものです。30分で倍の人数が殺人鬼になります。でも、アザを切り取ればそれも止まります」


続けて、殺人鬼のまま死んでしまった人のアザも切り取るべきだと伝える。


「お願いします。嘘じゃありません。あたしの言葉を信じて、協力してください」


最後には涙声になってしまった。


一刻も早くこんな状況から逃げ出したい。


怖くて怖くてたまらない。


そんな気持ちが言葉を発してる内に涙腺を伝って流れ落ちてきてしまった。


「よく頑張った」


放送を終えた後、純也はそう言って抱きしめてくれた。


今日はもう何度もこうして抱きしめられているのに、すごく久しぶりのような気がした。


「ここで少し休憩して、それから外へ出よう」


純也の言葉にあたしは素直にうなづいたのだった。
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