死なないあたしの恋物語
洋介君の表情が奇妙に歪んだ。


それはまるで、あたしを汚いものとしてみるような目つきだった。


『なにしてんのお前。ちょっと、意味わかんないんだけど』


それは今まで聞いたことのないくらい、冷たい声だった。


え……?


『俺、そういうのちょっとわからないから』


洋介君はそう言ってあたしに背を向けてしまった。


『待って洋介君! 違うのあたし、本当に――!』


ひきとめようとして手を伸ばすが、それは簡単に振り払われてしまった。


『ごめん。俺、そういうやり方で人の気を惹くのって嫌いだから』


その一言に氷りついた。


そうじゃないのに、もうなにもいえなかった。


ただ、切ってしまった左手首はとても痛くて、そして血はいつまでも流れ続けていたのだった。
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