死なないあたしの恋物語
☆☆☆

泣きながら目を覚ますしたとき、とっくにふさいでいるはずの手首の傷が一瞬ズキリと痛んだ。


「なんであの時の夢を……」


息を吐き出して手の甲で涙をぬぐう。


あの時のあたしは本当にバカだった。


話せばわかってくれるとか、実際に見てもらえばわかってくれるとか。


本当にそう思っていた。


相手からすれば不老不死の人間なんてこの世に存在していないのに。


あの日の翌日、あたしはみんなの記憶から自分の存在を消した。


そして、恋はなんてつらいのだろうと理解したのだった。


もう、あんな思いはしたくない。


人と仲良くなりすぎることも禁物だ。


相手を好きになればなるほど、別れはつらくなる。


あたしは手首の傷をなでて、洋人君のことを頭の中からはじき出す覚悟を決めたのだった。
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