死なないあたしの恋物語
☆☆☆

人の記憶を操作することはあたしにとって簡単なことだった。


ただ、強く願うのだ。


みんなの記憶の中から、あたしの存在を消してくださいと。


そうすれば明日にはあたしのことなんて覚えていないのだ。


「なんで、できないんだろう」


ベッドルームに篭り、何度も記憶の改ざんを試みているのだけれど、うまくいかない。


途中で洋人君の顔が浮かんできて、思考が途切れてしまうのだ。


あたしはベッドに寝転んで両手で顔を覆った。


こんな風になるのははじめてのことだった。


洋人君の中からあたしの存在を消したくないと、どうしても思ってしまって力を発揮できない。


「みんなの記憶を消さないと、真夏たちが家まで来ちゃうのに!」


自分にそう言い聞かせてみても、洋人君に握り締められた右手のぬくもりが消えない。
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