死なないあたしの恋物語
「私は彼のことが好きだけど、それでも気持ちを伝えることはできなかった」


あたしは小説の一説を声に出して読み上げる。


もうすでに暗記するほど読んだ恋愛小説だ。


身分違いの男女が恋に落ち、互いに好きだとわかっているのに伝えることができない。


2人の気持ちに気がついた周囲の人間が邪魔をしに入り、2人は更に追い詰められていく。


そして最後に2人は池の中で入水自殺をしてしまうという悲恋だった。


あたしは時間がたつのも忘れてその物語に入り込んだ。


どうしても伝えられない気持ち。


どうしても一緒になれない苦しさ。


それでも2人でいようと決めた男女。


「残された人たちはどんな気持ちだったんだろう」


あたしは本を読み終えて呟く。


この物語を読んだ後、必ず思うことだった。


物語は男女中心に繰り広げられているから、残された人間の苦しみや悲しみ、もしくは憎しみは出てこない。


だけどそこにもきっと沢山の物語があったはずだと、あたしは思う。


「残されたほうもきっと、悲しかったのにね」


呟くと、涙がこぼれてしまった。


慌てて指先でぬぐい、立ち上がる。
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