死なないあたしの恋物語
その願いが通じたのか、急に窓の外が暗くなった。


そっと外をのぞいてみるとポツポツと雨が降り始めたのがわかった。


あたしはホッとして息を吐き出した。


こんな森の中で雨が降り始めたら、さすがの洋人君も帰るだろう。


そう思い、再び階段に腰をおろす。


雨は一気に勢いを増して外の音をかき消してしまう。


森に降り注ぐ雨は生物たちの命の源だった。


あたしは目を閉じて雨音を聞くのが好きだった。


鳥や野生動物たちが逃げ帰っていく音が、雨に混ざって聞こえてくる。


10分ほどそうしていただろうか、コンコンと、またノック音が聞こえてきた気がしてあたしは目をあけた。


明らかに自然の音とは違うそれに目を見張り、玄関ドアへ視線を向ける。


まさか、まだいるの?


あたしの心が通じたかのように「誰かいませんか?」という声が聞こえてきた。


それは間違いなく洋人君の声であたしは息を飲んだ。


同時に雨粒が大きくなったようで、洋人君の声を掻き消してしまう。


それでも無視していればいい。


このまま出なければ問題ない。


そう理解しているのに、あたしはフラリと立ち上がり玄関へ向かっていたのだ。
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