【完】嘘から始まる初恋ウェディング

「翔?!」

彼の指先ばかり意識して歩いていたら、不意に背中に顔をぶつけてしまう。

ぴたりと足を止めた彼の視線の先に、見たこともない美しい女性が立っていて、白鳥さんの名前を呼びながら彼の手を取った。

「えー?!やっぱり翔じゃんかね?!
びっくり。一瞬誰かと思ったよ
つーか、何してんの。ライン見てないの?」

’翔’と白鳥さんを下の名前で呼ぶ女性は、美しい栗色の巻き髪の鮮やかなメイクを施した大人っぽい女性だった。

色っぽく厚い唇に乗せられた真っ赤なリップには、太陽の光に反射してラメがキラキラと光る。

私が触れたかった白鳥さんの手を、平然とした顔をして掴む。 とても親しそう。 考えてみたら、私ってば白鳥さんの事を何も知らない。

勝手に一人で盛り上がって恋だのなんだの考えてしまったけれど、彼は大人だ。 恋人の一人位いたとしてもおかしくはない。

「み、み、実悠…」

彼も彼で、親し気に美しい女性を呼び捨てにする。 表情を覗いて見たら、かなり動揺している。 いつもは落ち着いている彼の、知らなかった顔。

そんな顔を私の知らない女性に見せている事は、単純にショックだった。

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