【完】嘘から始まる初恋ウェディング
でもあいつ…蕎麦の方が好きかな? この間の立ち食い蕎麦屋も随分喜んでたし。
って、俺は何をあいつの事ばかり考えている! どうかしてる…。あんな夢見がちのお嬢様の告白を真に受けて。
あの位の年齢で男性経験が全くないから、少し年上の男が良く見えるだけなんだ。 恋なんて、熱病みたいなものだ。 そのうち自然と冷めていく。 それにあいつにはきっと相応しい男がいる。
「…?!」
スーパーで冷食コーナーを物色している時だった。 いつも感じる視線を感じたのは――
振り返ると、サッと黒い影が食品コーナーへ消えていくのが分かった。 ルナと一緒に居る時に感じる視線と同じ。
買い物かごを置いて、気配のする方を追いかけてみると、それらしい人物は見つからなかった。 辺りをキョロキョロと見回しても、もう既に視線は感じなかった。
やっぱり気のせいなんかじゃない。 今日は休日だ。 ルナが誰かに狙われているのは間違いない。
不思議と胸に不安が募って行く。 身辺警護を頼まれている身。依頼者を守るのは当然だ。 でも、この不思議な感情は。
それを押し殺すようにスーパーで買い物を終えて、撫子のマンションへと急ぐ。 着いた瞬間、頭を抱える会話が繰り広げられていた。 やっぱり今日は厄日だったのかもしれない。