【完】嘘から始まる初恋ウェディング
「ッ!!」
「大丈夫ですか?」
くるりとこちらを振り返った男性は、自分の持っていた大きな黒い傘を私の方へ差し出しにこりと優しい微笑みを作る。
藍色のスーツは、私を庇ったせいでびしょびしょに濡れてしまっていた。
スーツのとても似合う高長身のその男性は、きちりと整えられた黒髪の端正な顔立ちをしている方でどこかの企業の商社マンといったいで立ちをしていた。
呆気に取られている私に自分の傘をぎゅっと握らせて、上品な笑顔を作ると、颯爽と走り出してしまった。
「あ、あの…」
うっかりお礼を言うタイミングも逃してしまう。
握り締めた傘の柄の部分は、彼のじんわりと暖かい温もりがまだ残っている。
不思議な事もあるものです。 雨のせいで空はどんよりとした灰色の空模様。 けれど、風のように走り抜けていったあなたの後ろ姿だけ、まるで晴れ渡った空で太陽が水溜まりに反射したようにキラキラと光っていたのです。
人を美しいと思うのは初めての経験でした。 雨なのに、何故かあなたの周りだけ晴れ渡った空の様な柔らかい光で照らされていたのです。