【完】嘘から始まる初恋ウェディング
甘いため息が周りから聴こえてくる。無理はない。藍色のスーツをびしっと決める長身の彼は、真っ黒の黒髪が綺麗に整えられていて、とても美しい顔立ちをしているのだから。
爽やかな笑顔に、甘い低温の落ち着いた声色。 社員をぐるりと一通り見回した後、ばちりと目が合うと彼はにこりと私に向かって微笑んでいるように見えた。これはただの私の願望だったのかもしれないけれど。
その日から社内の女子社員は、イギリスの大手メーカーからやって来た白鳥さんのお話でもちきりでだった。
私も皆の話に入っていきたいのは山々だったが、何故か気が引けてしまい女子社員に囲まれている白鳥さんを少し離れた場所から見つめていた。
それは、十月。
金木犀がオレンジ色の花を沢山つけ、遠くまで届く柔らかい匂いを街中が包み込み
木々達が艶やかに色づき始め街を美しく染め上げる
秋の始まりの出来事だった。
結局その日は女性社員に囲まれている白鳥さんに話も掛けられず、途中から社長室に行ってしまい、朝に借りた傘も返せず終いになってしまった。