想妖匣-ソウヨウハコ-
体育館にたどり着き、更衣室で着替えを終え部活が始まる。麗は先輩達と輪になって話していた。
「流石麗だね。次の試合も麗が居れば勝てるよ!」
「うんうん。頑張ろうね!!」
「任せてください!」
麗は部活でエース級の力を持っていた。
バスケは秋と同じ時期に始めたのだが、元々の運動力が人並外れており、ぐんぐん力を付けていった。今では先輩達と互角にやり合えるまで成長している。
それに比べて秋はドリブルすら上手く出来ず、練習試合にさえ出して貰えていない。
「神楽坂さん。ボールの片付けをお願い出来る? まだ私達は練習しないといけないから」
人を嘲笑うような笑みを浮かべ言ってきたのは、女子バスケ部のキャプテン、佐々木巴。
明るい茶髪に、今は黒い膝までの短パンとTシャツを身にまとっており、靴はバスケで使う赤いバッシュという靴を履いていた。
部活中なため、髪は後ろの上あたりで一本に結んでいる。
「わかりました……」
「良かった、それじゃよろしくね」
当たり前というようにお願いした巴は、秋の返事を聞き手を振りながら去って行く。
秋は彼女の背中を見て舌打ちをし、白くなるほど手を強く握る。憎しみの籠った闇のように黒い瞳が、麗達と一緒に楽しく話している巴の背中へと向けられた。
「ふざけんなよ……」
その言葉に込められた感情は、怒りや憎しみといった負の感情そのもの。だが、その感情を相手にぶつけられるほどの勇気が秋にはないため、我慢するしかない。
一度深呼吸をし、言われた通りにボールを片付け始めた。