想妖匣-ソウヨウハコ-
片付けが終わり、秋はボールがまだ転がっていないか周りを確認している。すると、麗がボールを差し出した。
「あ、麗」
「お疲れ様。これ、廊下の方まで転がってたよ」
「あ、ありがとう」
秋はボールを受け取り、そのまま後ろにあった籠へと入れた。その時、麗が少し沈んだ声で話しかけた。
「ねぇ秋。貴方……」
「え?」
話を聞こうと秋は麗の方に振り向いた。すると、麗は重い口を開け何かを伝えようと口をパクパクとさせる。だが、言葉が喉で引っかかり上手く外に出す事が出来ない。その事に秋はイラつきと焦りを見せた。
「何? どうしたの」
催促する声にはほんの少しの怒気が含まれており、麗は少し目を開き肩を震わす。そして、続きを口にしようと開いた。
「秋はさ……」
麗はなんとか続きを話そうとしたが、やはり口を閉じてしまい話そうとしない。その事にイラついた秋は、早く会話を終わらせようとその場を離れた。
「何も無いならもう行くよ。麗も早く先輩達と一緒にストレッチして帰った方がいいよ」
そのまま秋は離れてしまい、麗は引き留めようと手を伸ばす。だが、その手は何も掴まず空を切ってしまった。
「秋、私は貴方と楽しく──」
小さな声で呟く彼女は、それ以上言葉を発する事はなく目を伏せ、そのまま先輩達の輪へと戻ってしまった。