想妖匣-ソウヨウハコ-
 秋が林の中を走っていた時、小屋の中では明人とカクリが静かに話していた。

「まぁ、そう簡単に目当ての物は見つからねぇか……」

 明人はソファーに寝っ転がりながら、液体の入った小瓶を覗き込んでいる。端から見れば、今彼が見ている小瓶の中身は透き通るほどきれいなただの水。だが、それはただの水ではなく、先ほど秋からお代として頂いた記憶。

 お代は【嫉妬の記憶】

 ただ、明人は記憶を全て頂いたのではなく、あくまで欠片を頂いた。抜き取ったのは欠片な為、秋に記憶を失ったという感覚はない。

 ”記憶の欠片”と言うのは、匣の中にあった闇の部分のみの事を指す。今回の依頼人である秋の闇は”嫉妬心”。
 自分は何も出来なく、何でもできてしまう友人を羨ましいと憧れ、そこから膨れ上がってしまった憎悪によっり閉じ込められてしまった本当の想い。

 その、憎悪のみを抜き取ったため、彼女のこれからにはなんの問題もない。

 見た目はただの水。だが、カクリと契約をして者なら小瓶の中で揺れている水を通して記憶を覗き見る事が可能。
 明人は今、そ記憶の中を覗き見ていた。

「そもそも、そう簡単に見つかるものでは無いと思うのだが」
「そうだけどよ。結構疲れるんだぜ? もうヘトヘトだ」

 言葉の通り、今の明人は血色悪く。体が重たいのかソファーに全体重を乗せ、小瓶をお腹に瞳を閉じた。

「もう少し体力をつけた方がいいのではないかい? これでは、もし次に依頼人が来た時出来るのかね」
「やってんだろ、今までだってよ。大体、お前がもっと早く話を終らせればこんなに疲れんでもいいんだろうが。そうすりゃ、俺だって少しは楽出来るのによ」
「それはすまない。だが、じっくり話をしなければ匣を開ける際、大変なのは君なのではないかい?」

 カクリの返答にめんどくさそうに眉を顰め、隣に立つカクリを睨む。そして、諦めたように小瓶をテーブルに置き今度こそ寝ようと顔を背け目を閉じた。

「依頼人が来たら起こせ」
「まったく…………」

 明人が目を閉じた事を確認すると、カクリはテーブルに置かれた小瓶を覗き込んだ。そこには、秋の記憶しかなく、探している物の手がかりすらない。

「手がかりすら見つからぬか。仕方がないな」

 せめて端の方に何かあればと期待したが、簡単に裏切られたため小瓶から身を離す。そのまま歩き出し奥の部屋へと姿を消した。
< 29 / 66 >

この作品をシェア

pagetop