想妖匣-ソウヨウハコ-
「麗、話があるの。聞いてもらえるかな」
「秋……」
最近では麗が話しかけてもすぐに会話を終らせたがったり、目線を逸らされたりしてまともに話せていなかった。そんな秋が麗に話しかけたため、麗はなんと言えばいいのかわからず戸惑いながら目を泳がしている。だが、その様子を気にせず、秋は言葉を続けた。
「私はずっと麗が羨ましかった。なんでも出来て、見た目も可愛くて人気者。そんな麗と一緒に居るのは、正直辛かった」
「……」
麗は秋の本音を聞き、目を伏せ顔を俯かせる。わかっていたのだろう。秋の本当の気持ちに。自分に向けられている感情に。だからこそ、何も言えず顔を逸らす事しか出来なかった。
「でも、これを言ってしまえば私は一人になってしまうから、ずっと我慢してた」
秋の口から言葉がスラスラと出てくる。喉が締まる感覚も、恐怖が頭を過る事もない。だが、周りのみんながそれを黙って見てはくれなかった。
「そんな事を言うためにわざわざ戻ってきたの?」
「誰のせいでこんな事になってると思ってんのよ!」
「自分の行いを今度は夏美さんのせいにしようって言うの?!」
周りの声は全て批判的で、前の秋ならこれだけでもう言葉が出てきていなかった。だが、今は違う。
「秋、えっと……」
麗は顔を上げ、心配そうに秋を見る。
────大丈夫。
そう言うように、秋は笑みを浮かべながら話を続けた。
「私は自分の中で諦めてた。自分の想いに蓋をしてた。でも、それじゃ駄目だって気付いたの」
秋は麗と目線を合わせるため、その場に膝をつきしゃがんだ。
「私は麗が羨ましく、それで憎んでしまった。でも、こうなってしまったのは、私自身が何も行動を起こさなかったから。私に出来るわけが無いと諦めていたから」
秋の言葉は力強く、彼女に対し責める人は居なかった。
「私達、今までずっと一緒にいたのに本当の気持ち。自分の想いをお互い伝えてこなかった。お互いに我慢をしていた所があると思う。だから……」
その後の言葉が出てこない。つっかえて出てこないのではなく、涙が出てしまい上手く話せなくなってしまっていた。
「だから、私は……っ……」
涙を拭いながら何とか言葉を繋げようとしていると、秋の頬に伝っていた涙を麗が人差し指で拭いてあげた。